インターネットのマルクス・エンゲルス--Marx and Engels Online Libraryの紹介--

赤間 道夫



I

「世紀末の世界をインターネットという妖怪が徘徊している」(村井純『インターネット「宣言」』講談社,1995年2月,15ページ。)
 いま話題が集中しているもののひとつにインターネットがある。世界中のさまざまなネットワークが相互に接続され,ネットワークのネットワークがインターネットである。約140の国を結び,3千万人ともいわれるパーソナルユーザーのネットワークである。1981年に213台のコンピュータではじまったインターネットは,現在では約200万台のコンピュータのネットワークになっているという驚くべき成長を遂げた。インターネットに接続されるネットワーク,パーソナルユーザー,コンピュータの数は,文字どおり指数関数的勢いで増えているという。
 もともとインターネットは,アメリカ国防総省ARPA(Advanced Reserch Projects AgencyのちにDARPA,Defence Advanced Reserch Projects Agencyに改められた)のひとつの実験から始まった。ARPANETがそれである。パケット交換によるネットワークであり,分散型ネットワークを特徴としている。ここには,中央集権的な情報システムであるならば,一発の(ソ連からの!)核弾頭で壊滅的打撃を受けてしまうという危機感があった。その後,ARPANET自体がARPANETとMILNET(非機密の軍用ネットワーク)に分割され,このふたつのネットワーク間の接続をDARPAインターネットと呼んだ。当然ARPANETへの接続は,軍事関係機関に限られていた。急速に増加したネットワークトラフィックと高速のネットワークに対応する目的で設立されたのがNSF(National Science Foundations全米科学財団) のNSFNETであり,1984年に提案され,86年に運用が開始された。
 NSFNETは,ARPANETとNSFNETとの相互接続,高速バックボーンの構築を果たし,現在のインターネットの基幹バックボーンになっている。世界大に広がるネットワークのなかで,インターネットは多様なサービスを展開している。@ファイル転送,電子メール,遠隔ログインなどの基本的なものから,Aメールサービス,BGopher,WWW,WAISなどの対話型情報配送,CWhoisなどのディレクトリサービス,DArchieなどのインデックスサービス,EKnowbotなどの能動エージェントサービス,Fネットワークマネジメント,G商用電子データサービス,H応用暗号サービス,Iマルチメディアサービス,J移動通信サービス。
 このようなインターネットの広がりと影響力は,パーソナルレベルの興味や学術研究にも応え,商業利用にもあらなた展開をみせようとしている。西暦2001年には,人口数とインターネット利用者が等しくなると予想する人もいる。「インターネットルネサンス」なる言葉も飛び交っている。ところで,インターネット自体の発想と発展をみると,インターネットは軍事情報の効率的な運用にその起源があったことは紛れもない。あの冷戦体制と強く結びついていたのだ。コンピュータの実用化が第2次世界大戦中の弾道計算や超音速戦闘機の操縦という軍事的要請にあったことを想起するとき,コンピュータのネットワークもそうした枠組みから脱しきれていないのはあながち不思議でない。

II

 このインターネットにマルクスとエンゲルスの著作データベースがある。Marx and Engels Online Library がそれである。このデータベースは現在のところ以下の内容から成っている(文献等の末尾のスラッシュ/記号は,さらに内容上の小分類が続くことを示している)。
  1. The M&E Online Library Update -- May 5, 1994(read me!)
  2. 1837+ - Young Marx (before editing Rheinische Zeitung)/
  3. 1842 -- Communism and the Augsburg   
  4. 1843 -- Letters to Arnold Ruge (M)/
  5. 1844 -- Critical Notes on "The King of Prussia"(M)
  6. 1844 -- Economic and Philosophic Manuscripts(M)/
  7. 1844 -- Intro to a Critique of Hegel's Philosophy of Right (M)
  8. 1844 -- On The Jewish Question (M)
  9. 1845 -- Theses on Feuerbach (M)
  10. 1847 -- Communist League/
  11. 1847 -- Principles of Communism (E)
  12. 1847 -- The Poverty of Philosophy (M)/
  13. A Scientific Discovery/
  14. The Metaphysics of Political Economy/
  15. 1848 -- Communism, Revolution, and a Free Poland (M)/
  16. 1848 -- Speech: On The Question of Free Trade (M)/
  17. 1848 -- The Communist Manifesto (ME)/
  18. 1849 -- Wage-Labor and Capital (M)/
  19. 1850 -- England's 17th c. Revolution (ME)
  20. 1853 -- The Duchess of Sutherland and Slavery(M)
  21. 1857 -- Intro to a Critique of Political Economy(M)/
  22. 1858 -- Pre-Capitalist Economic Formations (M)/
  23. 1858 -- The Grundrisse (M)/
  24. 1864 -- International Working Men's Association/
  25. 1867 -- Capital/
  26. 1867 -- Speech: Poland and the Russian Menace (M)
  27. 1868 -- Synopsis of Marx's Capital (E)/
  28. 1869 -- The Abolition of Landed Property (M)
  29. 1871 -- Marx's Daughters in Post-Commune France (Jenny Marx)
  30. 1871 -- New York World Interview with Marx
  31. 1871 -- The Civil War in France (M)/
  32. 1872 -- On Authority (E)
  33. 1875 -- Critique of the Gotha Program
  34. 1877 -- Socialism: Utopian and Scientific (E)/
  35. 1879 -- Chicago Tribune Interview with Marx
  36. 1879 -- Reformists in Germany's Social- Democratic party (ME)
  37. 1882 -- Bruno Bauer and Early Christianity (E)
  38. 1883 -- Engels' Speech At Karl Marx's Grave (E)
  39. 1886 -- The End of Classical German Philosophy (E)/
  40. 1894 -- The Peasant Question in France and Germany (E)/
  41. 1895 -- Capital III: Law of Value and Rate of Profit (E)/

III

 このLibraryは,無償の「純粋に共産主義的意味において着手された愛の労働」(Marx and Engels Online Library Guide)であり,あくまで「個人的啓発」(ibid.,)に資することを目的としたものである。この背景には,モスクワのProgress Publishersの消滅を契機としてマルクスとエンゲルスの著作が見つけにくくなったり,あるいは高価になることで,学生や労働者をして彼らの著作から疎遠にしてしまう,という危機感がある。
 日本ではすでに『マルクス・エンゲルス全集』(本のベージをまるごと画面に再現できる新しいプログラム「ピクトロム」を使ったCD-ROMとして復刻準備中とも聞く)や『レーニン全集』の絶版を経験していることからすれば,このような危機感が共有されていい。しかも,マルクス・エンゲルスが読まれなくなったと嘆く前に,インターネット上に電子情報として存在している事実に新しい可能性を見いだすことができまいか。冷戦体制のいわば副産物のインターネットにマルクス・エンゲルスが存在するアイロニーを事実として受けとめ,かえって彼らが普遍的に読まれる機会を得たとすべきではないのか。
 このプロジェクトは発展途上であり,同好の士の参加を呼びかけてもいる(後述)。コロラド大学におかれているファイル・サーバーであり,Gopher,FTP,E-Mailで必要なファイルが手にはいる。
 まず,WWWのブラウザ(MosaicやNetscapeなど)が使えれば,直接 gopher://csf.Colorado.EDU/11/psn/Marxに入ることができる。つぎにすでに紹介した年次毎のデータベースのタイトルが明示されるので必要とするデータを見ることができる。もちろん,ファイルとしてダウンロードも可能なのでブラウザツールのプルダウンメニューにしたがって操作すればいい。
 GOPHERプロトコルでは,gopher csf.colorado.eduとタイプしたあと,Select/typeとして11を選択する。そうすると,PSN(Progressive Sociologist Network)のメニューに入り,さらに,マルクス・エンゲルスのセクションである4をタイプすれば,テクストデータベースに到達する。
 FTPの場合は,anonymous(匿名)で自由にアクセスできる。サイトをftp csf.colorado.eduと指定し,passwordにはネチケットとして自分のIPアドレスをタイプし,ディレクトリをcd psn/Marxとする。あとはダウンロードするリスト項目を選択した状態でGet Fileをすればいい。
 また,E-mailしか使えなくても,ファイルを転送してくれる。ftpmail@sunsite.unc.eduあるいはftpmail@pa.dec.com宛にhelpとだけ書いてメールを送る。そうすると,このftp-by-mailサービスの詳細について返事がくるので,それにしたがって操作すればいい。全ディレクトリのコピーをダウンロードするには,csfserv@csf.colorado.edu宛にlist psn/Marxと本文にタイプして送信する。
 なお,ごく最近,これまでに電子テキスト化(E-text)されたリストをフォローするサイトができた。もちろん,このME Online Libraryをも参照している( http://english-www.hss.cmu.edu/marx.html)。

IV

 さて,このデータベースの典拠テキストは,Progress Publishers版である。コンピュータでもマルクス・エンゲルスが読めるというところであり,活字テキストを電子化したところに最大の特徴がある。典拠テキストとのページとの照合は一切ないから,テキストクリティークや引用箇所提示用には向かない。データベースとしては,とくに研究用としてはやや中途半端という面は否めないにしろ,マルクス・エンゲルスの著作に挑戦したこと,電子情報としての共有化を当初から企図していたことは大いに評価できる。日本の電子情報としての方向性をいくらか暗示しているのではなかろうか。ちなみに,協力者をもとめてもいる。連絡先は,zodiac@io.orgである。
【付記1】 このデータベースのファイルを希望する方に,MS-DOSあるいはMacintoshの双方で準備しているので,紹介者に連絡ください。また,アクセス等のことで問い合わせも歓迎します。
紹介者住所:790-77(専用郵便番号)
         愛媛大学法文学部
FAX:089-922-5369
E-mail:akamac@ll.ehime-u.ac.jp

【付記2】 インターネット上の情報には,マルクス・エンゲルス以外にも広く社会科学全般にとっても有益なものが多い。別の機会に紹介したい。
 
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